OECD - パリ、2022年6月23日
OECDの新報告書によると、各国政府が新型コロナウイルスのパンデミックとその他の危機から消費者と生産者双方を守るための措置を実施したため、公的農業助成は過去最高レベルに達しました。この助成のうち、気候変動とその他の食料システムを巡る課題と闘う長期的な取り組みに向けられたものは、ごく一部に過ぎません。
「農業政策のモニタリングと評価 2022年版(Agricultural Policy Monitoring and Evaluation 2022 )」では、OECDとEUの全加盟国と主要新興諸国11カ国を含む54カ国がモニタリングの対象となっています。それによると、これらの国々では2019~21年に年平均8170億ドルの農業助成が行われており、2018~20年に報告された7200億ドルと比較すると13%増加しました。OECD諸国の助成額は引き続き相当な金額で推移しており、新興国 11 カ国では大幅に増加しています。
消費者助成も行われますが、個々の生産者は2019~21年に年間6,110億米ドルに上る積極的助成を受けており、これはOECD諸国では農業総収入の17%、新興11カ国では13%に相当する金額です。この生産者助成の半分以上(年間3,170億ドル)は、消費者が支払う市場価格を高く設定することで提供され、残り(年間2,930億ドル)は、予算の移転という形で納税者によって支払われたことになります。
一方、少数の新興諸国では、政策によって一部または全ての商品価格が実質的に抑制されており、農業生産者から年間1,170億ドルが徴収されたことになります。
助成は全体的に増加していますが、イノベーション、防疫、インフラといった一般的なサービスが助成に占める割合は、20年前は16%でしたが、2019~21年は13%に減少しました。これらのサービスは、持続可能な生産性の向上を実現し、農業部門からの温室効果ガス(GHG)排出量を削減する鍵を握っています。本報告書では、農業が気候変動の影響に対して脆弱で、温室効果ガスの主要な排出源である一方、大気中の炭素を除去する可能性を持っているため、同部門が直面する気候変動問題は複雑であると強調しています。
マリオン・ヤンセン OECD貿易・農業局長は次のように述べています。「公的農業助成は記録的な水準に達したが、持続可能な生産性を向上させることを目的とした助成の割合は低下している。これは、良い兆候とは言えない。食料システムが抱える課題に対処すると同時に、農業部門の炭素排出量をパリ協定の目標を達成できる軌道に乗せるには、持続可能な生産性の伸びをさらに高める必要がある。11月に開催されるOECD農業大臣会合では、この問題が重要な議題として取り上げられることを期待している」
本報告書によると、ロシアのウクライナ侵攻が食料、飼料、肥料、エネルギーの市場に大きな影響を及ぼしており、政策当局は低所得国と消費者への影響について引き続き警戒を強める必要があります。いくつかの国々では、生産者と消費者に対する新たな圧力を緩和する政策がすでに実施されています。輸入規制の緩和など、食料供給を促進する措置もありますが、逆効果になるものもあり得ます。輸出規制は世界的な価格圧力と供給圧力を高めるため、回避または迅速に撤回する必要があります。また、国内生産を促進するために環境規制を緩和することは、景気循環効果をもたらす一方で、持続可能性を低下させるという代償を払うことになりかねません。
農業政策は、世界的な危機に対する現在の短期的な対応にとどまらず、現在の課題に対処すると同時に、気候変動と闘うための長期的な改革を支援しなければなりません。農業に特化した排出削減目標を設定している国は、本報告書が対象とする54カ国のうち16カ国のみです。こうした目標を設定することで、排出削減の取り組みを支持し進捗状況を測定することができます。各国には、排出量を増加させる既存の政策を改革するなどして、農業部門からの排出削減を強化・加速させる重大な機会が与えられています。
本報告書では、食料安全保障、暮らし、持続可能性に関わる幅広い食料システムの目標を達成しつつ、温室効果ガス排出量を削減するための、下記の政策課題6項目を提示しています。
► 環境に悪影響を与え、市場と貿易を歪める可能性が高い市場価格支持と支払いを段階的に廃止する。
► 農業部門の実績を向上させるために、公共財と主要な一般サービスの提供に対する予算支援の方向性を変更する。
► 所得支援の対象を最も必要としている世帯に絞る。
► リスクが多様化し、異常気象や自然災害が増加する世界に対応した危機対応ツールキットを強化する。
► 低炭素農業への移行を奨励するため、農業から排出される温室効果ガスに実効的な炭素価格制度を導入する。
► 農業が広範な炭素価格制度または同等の制度に含まれない場合、またはそれらの制度を補完している場合、農業部門からの大幅な排出削減を確実にする一連のアプローチを開発する。
OECD Agricultural Policy Monitoring and Evaluation について
OECDの年報、Agricultural Policy Monitoring and Evaluationは、OECD加盟38カ国と欧州連合全体および主要新興諸国の政府による農業助成の最新推計値を提供しています。
► 本報告書は、こちらからダウンロードできます:英語版/フランス語版
► 本報告書について、詳しくはこちらをご覧ください。
6月23日(水)パリ時間15:00(日本時間22:00)より、 Agricultural Policy Monitoring and Evaluation 2022の主要な結果について、オンラインでパネルディスカッションを行います。パネリスト:
- マリオン・ヤンセン OECD貿易農業局長
- マーティン・フォン・ランプ OECD貿易・農業局 農業資源課 シニア農業政策アナリスト
- アラン・マシューズ トリニティ・カレッジ(アイルランド)名誉教授(欧州農業政策専門)
- ナタリー・ギルアール OECD環境局環境実績情報課長
このパネルディスカッションは一般公開されます。ご登録はこちらからお願いいたします。
詳細については下記までご連絡ください。 Lawrence Speer in the OECD Media Office (+33 1 45 24 79 70)
OECDは、世界100か国以上と協力して、個人の自由を保護し世界中の人々の経済・社会的幸福を向上させる政策を推進する、グローバルな政策フォーラムの役割を担っています。
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